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最高裁判所大法廷 昭和35年(あ)672号 判決 1961年6月28日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人原良男の上告趣意第一点、同平松勇の上告趣意第二点について。

刑事事件において適正且つ迅速な裁判は、憲法上の要請であるとともにまた刑訴法の目的とするところであるが(憲法三七条一項、刑訴法一条)、迅速な裁判の要請は、適正な裁判並びに被告人の防御権保持の要請と、なんら本質的に相容れないものではないのである。ところで、公職選挙法二五一条及び二五一条の二によれば、同法による選挙の当選人が、自らその選挙に関し同条所定の罪を犯し刑に処せられたとき、及び選挙運動の総括主宰者又は出納責任者がその選挙に関し同条所定の罪を犯して刑に処せられたときは、当該当選人の当選が無効となるのであるから、当選人又は総括主宰者、出納責任者らが右犯罪の嫌疑を受けて公訴を提起された刑事事件にあっては、事犯の性質上、右当選人としての法律関係を速かに確定させるため、特に他の事件に優先して審理判決すべき要請が存するのであり、同法二五三条の二の規定は、まさに右の要請に応えようとする趣旨に出たものであって、合理的な根拠があるものとして是認されるべく、これがため裁判が粗漏、拙速に流れ被告人の防御権を不当に制限するも可なりとする趣旨でないこと固よりである。それゆえ同条の規定をもって憲法一四条に違反するものとすることはできない。また、憲法三七条一項にいう「公平な裁判所の裁判」というのは、組織構成等において偏頗のおそれのない裁判所による裁判という意味であり(昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五月五日言渡、昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日言渡各大法廷判決)、憲法三七条二項は被告人又は弁護人からした申請に基きすべての証人を喚問し不必要と思われる証人までをも悉く尋問しなければならないとする趣旨を定めたものでないこと(昭和二三年(れ)第八八号同年六月二三日言渡大法廷判決)いずれも当大法廷の判例の趣旨とするところである。それゆえ論旨は理由がない。

弁護人原良男の上告趣意第二点について。

記録によれば、原判決は所論「共謀」又は「謀議」の事実を厳格な証明によって認定していること明白であるから、判例違反の主張は前提を欠き採るを得ない。

弁護人平松勇の上告趣意第一点について。

所論は、上告趣意書差出最終日を延期しなかった当審の措置を非難するもので、原判決の違法違憲を主張するものではないから、上告適法の理由とならない。

弁護人草光義質の上告趣意は単なる法令違反の主張で上告適法の理由とならない。(原判決がその是認した事実について示した擬律は相当である。)

弁護人原良男の上告趣意第三点は訴訟法違反及び事実誤認、弁護人平松勇の上告趣意第三点及び第四点は各訴訟法違反、第五点は再審請求事由の存在、第六点及び第七点は各事実誤認の主張であって以上すべて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。弁護人柏木博の上告趣意のうち憲法違反をいう点は、憲法三七条一項にいう「公平な裁判所の裁判」とは、組織構成等において偏頗のおそれのない裁判所による裁判という意味であることすでに説示したとおりであるから理由がなく、所論のうち訴訟法違反及び事実誤認を主張する点は、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人平松勇の上告趣意補充書(昭和三五年一一月五日付)は上告趣意書提出期間経過後の提出にかかる不適法のものであるからこれに対しては判断を加えない。

記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、弁護人原良男の上告趣意第一点、弁護人平松勇の上告趣意第二点につき裁判官斎藤悠輔、同池田克、同下飯坂潤夫の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。

右論点に対する裁判官斎藤悠輔、同池田克、同下飯坂潤夫の意見は、次のとおりである。

公職選挙法二五三条の二の規定は、元来全審級に通ずる訓示的規定であって、これに従うと否とによって判決に影響を及ぼすものではない(現に原一、二審判決は同条項所定の期間内になされていないこと記録上明らかである)。されば所論は上告適法の理由と認められない。しかのみならず同条は、当選人又は総括主宰者、出納責任者が同条所定の犯罪の嫌疑を受けて公訴を提起された刑事事件においては、当選人としての法律関係を速かに確定させるため他の事件に優先して審理判決すべきものとする法意にほかならないのであって、これがため裁判が粗漏、拙速に流れ被告人の防御権を不当に制限するも可なりとする趣旨でないことは明らかである。しかるに論旨は、同条の規定によって被告人の防御権が不当に制限され被告人が特に不利益を被むるものであることを前提として、同条が憲法一四条、三七条に違反すると主張するものであるから、違憲の主張はその前提をも欠き、この点よりするも上告適法の理由とするをえないものである。

(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助)

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